選択マーカー(3) ~特許(要約)を読んでみる~

 

J-PlatPatにおいて要約に絞り

「選択マーカー」、「ポジティブ」、「ネガティブ」が全て含まれるものを検索して

ピックアップした以下の要約を読んでみます。

 

特表2013-520165 改善されたメガヌクレアーゼ組換え系

【要約】

本発明は、部位特異的エンドヌクレアーゼのDNA標的部位に先行するゲノム領域及び

後続するゲノム領域に相同な少なくとも2つの部分を有し、

また、該相同部分が介在するネガティブ選択及びポジティブ選択マーカーの両方、並びに

興味対象の配列をポジティブ選択マーカーに隣接してクローニングすることができる領域を

含んでなる第1の組換え誘発性構築物(i);と

メガヌクレアーゼを含んでなる第2の構築物(ii、iii又はiv)と

を少なくとも含んでなる遺伝子構築物のセットに関する。

本発明はまた、これら構築物を含んでなるキット及びこの構築物セットを、

標的細胞、組織又は生物のゲノム中に興味対象の配列を導入するために使用する方法に関する。

 

 

 

発明の名称は、「改善されたメガヌクレアーゼ組換え系」です。

ここでいう「組換え系」とは、図1のように外来遺伝子を染色体に組込むためのシステムです。

プラスミドを細胞に入れただけでも「組換え」という場合がありますが、

この発明はそうではないようです。

なぜなら、メガヌクレアーゼを使用しているからです。

「メガヌクレアーゼ」とは一般的に、10数DNA塩基対以上を認識する特殊な制限酵素のことをいいます(※)。

※制限酵素(wikipedia

※書籍:微生物機能を活用した革新的生産技術の最前線: ミニマムゲノムファクトリーとシステムバイオロジー

 に記載がありました(google booksですが)

 

ヌクレアーゼを使用する組換え系とは通常、ヌクレアーゼにより染色体のDNAを切断して、

その部位に外来遺伝子を挿入すると考えます。

図1に「組込み染色体遺伝子座」と記載があることからも、染色体への組込みであると判断できます。

 

ここでは「改善された」の内容は具体的にはわかりませんが、

ポジティブ選択マーカーとネガティブ選択マーカーが同じプラスミドに乗っていることが気になるところです。

 

 

 

1行目から読んでいきます。

まず「部位特異的エンドヌクレアーゼ」ですが

部位特異的という名前の通り、特定のDNA配列を認識して切断する酵素です

「エンド( = -endo) 」はここでは「内部」を意味しており、

「ヌクレアーゼ」は核酸分解酵素のことなので、

図1上部のメガヌクレアーゼ切断部位のところで切断すると考えます。

 

余談ですが、関連する酵素として、「エキソ(-exo)ヌクレアーゼ」という酵素も存在します。

「エキソ(= exo-)」は「外、外部」を意味し、

DNAの末端から順次DNAを分解する酵素です。削っていくイメージです。

そのため、この図の場合、例えばメガヌクレアーゼ発現プラスミドのような環状DNAは

末端がないのでエキソヌクレアーゼでは分解されません。

 

「DNA標的部位に先行するゲノム領域及び後続するゲノム領域に相同する少なくとも2つの部分を有し」

は、図1の矩形斜線部を指しています。

メガヌクレアーゼ認識部位の上流と下流に配置しています。

「相同する」とは、実線でXのようにつながっている矩形斜線部のDNA配列どうしが同じということです。

 

「また、該相同部分が介在するネガティブ選択及びポジティブ選択マーカーの両方、

並びに興味対象の配列をポジティブ選択マーカーに隣接してクローニングすることができる領域を

含んでなる第1の組換え誘発性構築物(i) 」では、

組換え誘発性構築物(図1の組込みマトリクスにあたる)の構成が書かれている文です。

 

ここで、「クローニングすることができる領域」とは図1中の「MCS」を指します。

MCSmulti-cloning site の略です。

制限酵素の認識部位がたくさん含まれている領域であると考えます。

MSCの部分を切断して、環状DNA(図1の組込みマトリクス)をこじ開けて「興味対象の配列」を挿入します。

図1の一番下の線状DNAの図を見るとMCSの位置にGOIという遺伝子が挿入されてることがわかります。

 

図1の下部の「Cis活性転写促進配列」は、「転写促進」であるため、

遺伝子の発現に必要なプロモーター等を含んだ配列と考えられます。

「Cis活性転写終止配列(すなわち、ポリアデニル化シグナル)」は、

文字通り遺伝子の転写が止まる部分で、RNAはここで一旦切断されて、次にポリアデニル化が起きます。

※ポリアデニル化について(wikipedia

 

図1からもわかるように、上記2つのCis~配列は各遺伝子を挟むように配置され、

遺伝子の転写開始と終止を制御します。

 

ちなみに、「Cis」はこれらの配列が同一分子で作用することを意味します。

例えば、メガヌクレアーゼ発現プラスミドのCis活性転写促進配列は、

別のプラスミドとして存在している組込みマトリクスに対しては作用しません。

Cis活性により、各遺伝子を独立して発現させることが可能になります。

※Cisについて(wikipedia

※「プラスミド」とは染色体以外のDNAを指します(wikipedia

 

「組換え誘発性構築物」は冒頭にも出てきた「相同」というキーワードに関連します。

「組換え誘発」とは相同組換えを誘発するということです。

図1の矩形斜線部分どうしが実線で結ばれていますが、その部分を利用してDNAが組換えを起こします。

組換えが発生すると、環状DNAの矩形斜線部分で囲まれた領域が、図1中の組込みの染色体遺伝子座に

挿入されます。反応の順番としては、

(1)メガヌクレアーゼプラスミドによりメガヌクレアーゼが発現

(2)メガヌクレアーゼによる切断

(3)相同組換え反応

(4)遺伝子の挿入

の順で起こると考えられます。

選択マーカーの発現とメガヌクレアーゼの発現の順番を制御するためにもCisにしていると思われます。

 

相同組換えによって生成した産物が、図1の一番下の線状DNAの模式図です。

図1が代表図面であることから、この発明で期待する構成のコンストラクトであると考えられます。

 

「メガヌクレアーゼを含んでなる第2の構築物(ii、iii又はiv)とを少なくとも含んでなる遺伝子構築物の

セットに関する。」

この明細書の発明は、組込みマトリクスとメガヌクレアーゼ発現プラスミドを含むキットであると言っています。

 

「本発明はまた、これら構築物を含んでなるキット及びこの構築物セットを、

標的細胞、組織又は生物のゲノム中に興味対象の配列を導入するために使用する方法に関する。 」

上記の2つのプラスミド(第1と第2の構築物)を含むキットをつかって、目的の遺伝子配列を標的に

挿入する方法に関する発明のようです。

システム自体は既存のものですが、発明の名称に「改善」とあるので

メガヌクレアーゼの認識方法に工夫があるのか、

または選択マーカーと薬剤の組合せに何かあるのかもしれません。

 

図1を見ていきます。

図1の線状DNAの模式図は、ポジティブ選択マーカーのみが入っていることから、

ポジティブセレクションにより、目的の遺伝子構成を持つ細胞を選別しているものと思われます。

ポジティブ = 選択マーカーを持っている細胞が生き残る なので、

このポジティブ選択マーカーにはなんらかの毒性物質を分解するのか、

毒物になる前に代謝を阻害する働きがあると思われます。

 

図1ではネガティブ選択マーカーのふるまいについて示されていませんが、

ネガティブ選択マーカーのみ、またはポジティブ選択マーカーとネガティブ選択マーカーの両方が

染色体遺伝子座に組み込まれる可能性があります(図5の一番下の線状DNA模式図)。

(細胞内で図1の組込みマトリクスが切断されて連結後に組換えが発生する場合やなど)

 

特表2013-520165 改善されたメガヌクレアーゼ組換え系 図5

 

 

図5下部の、プロドラッグ感受性という記述は、プロドラッグ存在下で細胞は死ぬか増殖しないことを意味して

いると考えられます(※)。

これより、意図しない構成の組込みが発生した場合に、

ネガティブ選択マーカーが組み込まれるようになっていて(一番下の線状DNA模式図)、

意図しない構成のものはネガティブセレクションにより排除されることを読み取ることができます。

※遺伝子工学においては、「耐性」 or 「抵抗性」と「感受性」は反対概念であるため

 

ベン図で表すと、取得したい細胞群は赤文字で示した領域になると考えられます。

 

 

この場合、最終的に目的の細胞群を得るためには、

・細胞群Pの選択(ポジティブセレクション)後、不要な細胞群2を排除する(ネガティブセレクション)

・細胞群Nの排除(ネガティブセレクション)後、細胞群Pを選択する(ポジティブセレクション)

方法が考えられます。

 

・明細書の内容

メガヌクレアーゼの認識部位を任意に設定できることや、

ネガティブ選択マーカーによって組換え体を効率よく選択できることが

発明のポイントだったようですが、拒絶査定されていました。

 

 

選択マーカー(1)~(3)のまとめ

・選択マーカーとは、遺伝子が改変された細胞を選別するために用いる遺伝子である

・選択マーカーを持っている細胞が生き残る ⇒ ポジティブセレクション

・選択マーカーを持っていない細胞が生き残る ⇒ ネガティブセレクション

 

遺伝子工学における選択マーカーを利用した「選択」は、

「遺伝子発現 ⇒ タンパク質生成 」後の生体反応の性質に基づいて分離します。

 

「生命」というものを扱う技術分野だけあって、

沸点、融点などの化学的性質ではなく、

「強い奴が生き残る」という、

ある意味自然法則を利用して「選択」を行っているようでした。

 

選択マーカーによる選択、その後

選択マーカーで細胞を選択した後は、細胞をさらに細かく分離または純化する作業が続きます。

細胞を「物質」として扱うのであれば、人工の化合物を扱うかのごとく細胞の物理化学的性質

に基づいて分離していきます。

「生命」を維持したまま利用する場合は、物理化学的性質に基づきながらも、

いたわりの心をもって分離することが必要なようです。

ダメージレスソーティング (アニメーションがわかりやすいです)

 

選択マーカー(1) ~ 定義 ~

選択マーカー(2) ~ ポジティブセレクションとネガティブセレクション ~

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